小説酒場放浪〜新橋・ニューニコニコ~
新橋。17:30。
本屋営業パラドックス
営業は野球に似ていると思うときがある。
打たれてからの、つまり断られてからの心の在りようでその後の展開が変わる。
得てして思わぬ展開が待っていることが多い。
品川のB書店で福地さんに会う。
福地さんらしき人は先客と対応中だったので、
「出版社Kブックスの小池と申します。
「今日はご予約はしてますか」
「はい、15時から」
「少々お待ちください」
と言ってレジの女性が奥のバックヤードに通じる扉を開け、
すぐに青いエプロンを身につけた背の高い男性が出てきた。
挨拶をし、訪問の趣旨を伝える。
話をしている時からやや体を斜め後ろに反り気味にして訝しげな視
「基本、
ごもっともである。
福地さんの言葉が至極当然のような気がした。
と同時に、福地よ少しノリが悪いぞとも思った。
まあこういう時は無理強いをせず、相手の意向を受けて引き、
「お忙しい中お時間をとっていただきありがとうございました。
福地さんはまた先程のバックヤードに消えていった。
出鼻をくじかれ鼻先がつーんとした。3秒ほど虚空を見ながら、しかしすでにこころは隣の大崎に向かっていた。
この大崎から新橋までの3書店は、
先のことはわからないものだ。初見アポなしはリスクが多く、とりあってくれない確率が高いと言われていたが、そこを押して行ってみたら、思わぬ展開を引き寄せることができた。
引き際よく、あとを引かずに次に行けば、その逆もまた真なりという新たな展開を引き寄せる。これぞ「引き寄せの美学」。
と、よろしく着地が決まったところで、ここは新橋。自然、足がS
そして吸い込まれていくように入っていくのが、
憩いの地下街で読む「おいしいごはん」
なんなんだろう。
たぶん「郷愁」なのかもしれない。
無性にワクワクするのだ。
ニュートーキョー、ニューオータニ、ニューグランド、
だいたいにして名前に「ニュー」がつくものが実際において「ニュー」
この建物は、わたしが大学生のころから出入りしていた。
その頃、
当時フラメンコにも興味があったのだが、
正面の入り口を入ってすぐ右にあるエスカレーターを地下へと降り
【憩いの地下街】
地下フロアは、居酒屋をはじめ、バー、中華料理店、カレー屋、
それぞれの店内の様子を覗きながら徘徊するのも楽しい【
わたしは、おそらくエスカレーターを降りる段階から9割がたは決
ニューニコニコ。
まず、屋号がいい。ニコニコ。いつの時代も笑顔が人を癒し、
そして屋号に「ニュー」
午前11時から営業している居酒屋である。
禿頭・白髪率が高い。
入ってすぐ右の小上がりには常連と思われる、禿頭・
この店は焼きものがいい。
なにせ柔和な笑顔が可憐な女将さんが50年間この焼き場を守って
生ビールとサバの塩焼きを注文する。
隣の席の男性客はマグロの中落ちをつまみながら視線を真下に落と
生ビールがくる。
焼き場の女将さんが、
大相撲中継も終盤にさしかかり、
わたしはビールで喉を潤しつつ、
「二谷」と一杯
これほどまでにカップラーメンが美味そうに描かれている小説もな
何の因縁か、二谷は食に対して、そして女に対して根本的な「
弱者が勝者であり、強者が敗者であるという、
じっくり時間をかけて焼かれたサバの塩焼きを女将さんが運んでき
香ばしくパリッと焼き上げられたサバを一切れ、
大相撲中継は、結びの一番である大関貴景勝・
「浴びせ倒し」という聞きなれない技で貴景勝に土がついた瞬間、
店全体が一体となった瞬間だった。
少し時が止まったかのように思えたのも束の間、
結局、最後に勝つのは弱者に見せかけた真の強者か。
そして二谷よ。お前はいったい何がしたいんや。
不本意な職場と不本意な女の間でにちゃつくのもいいが、
食うに困りたくないから経済学部を選んだが、本心は文芸だろ。
ただ、どんなに「にちゃに」が煮えきらなくても、
芦川には誰も勝てん。
芦川最強説。
と、新橋「ニューニコニコ」