アングラ喫茶巡礼〜神田・神保町〜
ときめきの”アングラ”
11:30。神保町。
決してさぼるのではない。
れっきとしたランチタイムだ。
東京堂書店でIさんに会う。
電話でアポイントを取った時から思っていたが、なんてノリのいい人なのだろう。
考えてもみてほしい。
見ず知らずの、聞いたこともない出版社の女が、突然電話をかけてきて、会いたいと言ったら翌日会ってくれることになり、当日挨拶するなり、伏し目がちながらも親身に話を聞いてくれて、どちらかというと不得意とするジャンルの本を店頭に並べてくれるというのだ。
こんな伏し目がちな挑戦者は、藤井聡太九段以来である。もちろん藤井聡太九段がわたしに直接挑んできたことはない。
本屋の店内であるため、わたしは小声でIさんに謝意を伝えて東京堂書店を後にした。
初対面ながら初受注。やや小躍りしながら向かったのが1955年創業「さぼうる」
屋根を模したのだろうか、
魔除けのような彫刻が施された木柱と木製の梟が並んで通行人、
店内は期待を裏切らないアンダーグラウンド感。
忌野清志郎と思われるシャウトが低音で響き渡る。
入るとすぐ地下へ向かう階段と、中2階へ向かう階段がある。
わたしはこの、喫茶店内にある階段というものが好きで、
そんな、ときめきの階段を中2階へと進む。
嗜みと慎み
ピザトースト(大)とコーヒーを注文する。
ピザトーストに(並)と(大)があるのをはじめて見た。
チーズ好きである故に、迷うことなくピザトースト(大)
ピザトースト(大)とコーヒーが来るのを待つあいだにPCを広げ
おおよそPCをカタカタいわせるのが似合わない空間である。
思えばその存在を気にしながらも、
学生と思われる若い女性客が意外といる。
光が差しこむ、明るい、小洒落たカフェだけが今、求められているわけではなく、「
魅惑のピザトースト(大)
ピザトースト(大)が運ばれてきた。
すでに融点に達している大量のチーズが厚切りトーストにのしかかっているさまは、いやが上にもチーズ好きのこころを躍らせる。
喫茶店ではこのようないわゆる「軽食」が絶品であることが多い。
軽い食と書いて軽くあなどれないのである。
ひと口齧るとブラウンマッシュルームとトースト・オニオンがうねるチーズの隙間からするり抜け、マッシュルームは皿、オニオンはスカートをバウンドし床に落ちた。オニオン片をそっと紙ナプキンに包んで救出する。
そんな躍動感もピザトーストを齧る楽しみの一つである。
引き続き店内は忌野らしき声がこの店の均衡を保っている。
わたしはチーズの風味がお口に残ったまま終わってもコーヒーがあるので全く問題なか
「さぼうる」とはスペイン語で「味」という意味だそうだ。
お後がよろしいその爽やかな甘みに、どんなに時代が変わろうとも地下に埋もれない「さぼうる」の心意気をみた。