45歳独身女の独白

「ブログを書く時間がない」という理由で会社を辞めた45歳独身女の独り言

小説酒場放浪〜渋谷・鳥竹総本店~

 

記憶の迷路「百軒店」

渋谷。18:00。

 

東急百貨店を目指すのに、間違えて道玄坂を登り、百軒店を過ぎたあたりでこりゃ怪しいと判断、百軒店のネオンをくぐり、名曲喫茶「ライオン」のひときわ異彩を放つ建築と微かに漏れるクラシックにうしろ髪引かれながらホテル街を抜ければ目の前に現れた目的地、東急百貨店。

 

このあたりはやけに懐かしい。

 

Bunkamuraシアターコクーン明石家さんまの舞台を観たり、確か怒髪天のライブもこのあたりだったような気がする。そう言えば20歳くらいの頃、何を思ったかホステスを目指し、服を着替えさせられたが、全くもって気が利かず使いものにならなかった記憶もこのあたりだ。今はもう記憶の中の人と、8年前の雪の降る夜に肩よせ歩いたのもこのあたりである。

 

そんなまばらな記憶の断片が浮き沈みする界隈を不思議な感覚で歩きながら、東急百貨店で用を済ませて駅方面へと坂を下る。

 

啓文堂書店では担当の方が不在、仕方なく出直そうとしたそのときに見つけたのが町田康の短編小説集「記憶の盆をどり」。

 

この本を片手に啓文堂書店から徒歩10秒、昭和38年創業の「鳥竹総本店」へ決然と歩を進める。

ほの暗く昭和ニヒルな空間「鳥竹総本店」

井の頭線渋谷駅西口徒歩10秒、もくもくの煙が目印

扉を開けると逆くの字になっているカウンターで、すでに一人飲みの男性客が3名ほど、思い思いの「鳥竹」を堪能している。

 

一番奥のカウンター席についた。

 

見上げるとずらり手書きのメニューが貼ってあり、いやがうえにも期待が高まる。

値段が書いてないのが少しく不安になるが、卓上に詳細メニューがあるのでひと安心。

車だん吉のサインがユーモラス

三岳の水割り

首肉

ぼんぼち

煮込み

 

を注文し、早速「記憶の盆をどり」の扉を開く。

盆をどる

その日本語の豊かさと自在さによって、他の誰にも似ないし真似することができない町田康の世界に瞬く間にいざなわれる。

 

賑やかな客の笑い声が聞こえる2階に対して1階は静か気ままに酒肴を楽しむひとり飲みたちの時間が流れる。

 

そんなニヒルな空間で読むのにぴったりの「エゲバムヤジ」。たった7ページで表現される生命と愛の美しさと金に目が眩む人間のおかしみ、やるせない本質。

 

三岳の水割りがくる。

 

その名のとおり、野趣あふれる芳香が口の中に広がる。

 

首肉、ぼんぼち。

おしりフリフリさせながらせわしなく歩くさまが目に浮かんでしまう、その締まりのある弾力を塩で味わう。

 

単品でライスをたのもうかと迷うほど、ご飯にかけて食べたら絶対にうまい煮込みの汁を最後の一滴まで余すところなく飲み下す。

 

いい空間。いい酒肴。いい小説。

 

久々の渋谷で迷い込んだ百軒店でひとり、記憶の盆おどりをしながら、引き寄せた町田康の小説をアテに三岳で盆をどる。ファンタスティック。